才能のある人と仕事をするにはどうすればいいのか。雑誌『モノノメ #2』を刊行した評論家の宇野常寛さんは「僕は人間関係で評価される社会に疑問を感じ、5年ほど前から飲み会に行かなくなった。すると人脈はむしろ広がり、強固な関係を築けるようになった」という――。

『ドライブ・マイ・カー』監督との鼎談が実現したワケ

——モノノメ #2』には、アカデミー賞の国際長編映画賞に選ばれた『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督と編集者の佐渡島庸平さんとの鼎談が掲載されています。映画が話題となるずっと前に、こうした企画が動いてることに驚きました。この企画はどのようなつながりで生まれたのですか。

宇野常寛主宰の批評ユニットPLANETSの新雑誌。昨年9月刊行の『モノノメ創刊号』に続き、人の目のネットワークに閉じ込められた現代の情報環境の外側から世界を観る視点を提供する1冊。全国書店ほか公式オンラインストアでは特典付きで発売中。
宇野常寛主宰の批評ユニットPLANETSの新雑誌。昨年9月刊行の『モノノメ創刊号』に続き、人の目のネットワークに閉じ込められた現代の情報環境の外側から世界を観る視点を提供する1冊。全国書店ほか公式オンラインストアでは特典付きで発売中。

【宇野】ある日突然、佐渡島さんから、「濱口監督と会いませんか」とメールが来たんです。佐渡島さんと濱口さんは学生時代からの親しい友人で、映画を見た佐渡島さんは僕と監督が話すのが見たいと、すぐに思いつきをメールしたそうです。佐渡島さんとは、もう10年近くよく仕事をしていて、年齢も近いので意識もしています。ただ、僕と彼とはまったく逆のタイプで、佐渡島さんは作品の内容よりもその届け方に興味がある。対して、僕は作品の中身に興味がある。そしてお互いにその視座の違いを楽しめている関係です。

ただ、似ているなと感じるところはあって、それは自分の知的好奇心だけを基準に行動する、夏休みの小学生のようなところがあるところです。特に彼が福岡に移住してからはその傾向が強くなったと思います。それは、東京にいた頃はあまり経済誌などに登場しているときに彼が見せなかった側面かもしれないですね。

その佐渡島さんが「宇野さんと濱口監督が話したらおもしろい」と言ってきたので、そこは彼を信頼して、乗っかることにしました。

人脈ありきではなく、物事ベースで選ぶようになった

もちろん、『ドライブ・マイ・カー』が取るに足りない作品だったら話を受けていません。もともと作品を観ていて、やっぱりこれはすごい作品だな、どこかでしっかり言及したいなと思っていました。

——仕事をするうえで人脈をどう考えていますか。

【宇野】僕は10年くらい前から人との付き合い方をガラリと変えました。僕が以前よく仕事をしていた、批評や思想の業界はかなり陰湿なムラ社会という側面が強くて、それはたぶん今でもあまり変わっていないと思います。

それぞれの党派ごとに業界のボスがいて、取り巻きを連れて飲み歩くような文化がまだ残っている。そして取り巻きはボスに忖度そんたくして、ボスが嫌いな人間の悪口を言ったり、事実に尾ひれをつけて述べて中傷する。その模様がオンライン配信されて、熱心な信者が同調していく。そして「いじめ」的に「あいつはダメだ」という空気が作られていって、取り巻きはそのご褒美に席をもらう。口ではリベラルとか、多様性とか言っていても実態はそんな昭和のコミュニティです。